保健室に漂うのは、ほのかなタバコの香り。


 大好きなあの人の香りだ。


「んー、いい匂い……」


 決してタバコの匂いが好きとか、そういうわけじゃないんだけど、不思議とその人の香りは嫌いじゃなかった。


 誰もいない保健室のベッドに横たわり、私─岸 蒼依はシーツについた匂いを胸いっぱいに吸った。


 たったそれだけで、今日の授業も頑張れる。……ような気がする。
 

「…おい、また勝手に入ってきたのか?」