「航平くんの…」
沈黙が怖くて、あたしはクチを開いた。
「…じゃなくて、あの小説の主人公の男のコの初恋が、あーいう感じで終わちゃって、あたし、読んでてホントかわいそうだった」
「でもな、初恋がハッピーエンドにならないのは、ある意味、全然フツーのことだしな。フッ」
そう言って笑ってみせるけど、すごく無理やりって感じがした。
「ま、あのときのことを客観的に冷静に見られるようになったから、小説のネタにすることもできるようになったんだと思うし、俺の中では過ぎ去りし過去のことだ」
でも彼の無理やりの笑顔を見ていると、あの初恋が過去のこととしてキレイさっぱり処理されているようにはどうしても思えない。辛い思い出ほど、頭の片隅にしぶとくこびりついているものだから。
でも、かさぶたをはがして、過去の古傷に触るようなことはしたくなかったから、あたしはあえて彼の初恋のことについて、それ以上深くは追求しまいと思い、そして話題を変えることにした。
「ねぇ、航平くんはこれからも小説、書き続けていくの?」
「いや、たぶんコレが俺にとっての最初で最後の小説だと思う」


