熱恋~やさしい海は熱砂の彼方~

みさきちゃんちはあたしンちの“お向かいさん”だ。だから2階の向かって右側の部屋に電気が点いているかどうかで、彼女が部屋にいるかどうかが分かる。

「勉強なんかしてないよ。だって、今、みさきちゃんとケータイで話してるんだもん♪」

あたしは勝ち誇ったような気分だった。彼女が勉強をしていないという、かくたる証拠が自分の手の中にあったからだ。

だけど母はまるでひるんだ様子がない。…ってゆーか、もう一度言わないと、たぶん母には理解できないんだろう。

「でも、ちゃんと勉強部屋にいるだけエライわ。昨夜、母さん、夜中の2時に目が覚めてトイレに行ったんだけど、そのときもみさきちゃん、勉強してたわよ」

「ああ、そのことなら、昨夜、深夜ラジオを聞きながら電気を点けっ放しで朝まで寝てたって、みさきちゃん、自分で言ってたよ」

「じゃあ、アンタも部屋の電気だけは点けときなさい。そしたらみさきちゃんのお母さんもアンタが夜中まで勉強してると思うから」

昔から母はなにかにつけて、あたしとみさきちゃんを比べようとする。

お向かいさん同士で、同じ学校に通う、同い年の女のコがいるんだから、比べるな、というほうが無理なのかもしれないけど、他人と比べられていい気持ちはしない。


まず見た目で比べられるんだけど、この点について、かなわないのは素直に認める。