「お前は、もう学校には行かなくていい」

サクラの耳には、はっきりとそう聞こえた。
作り話が好きなお父さんの冗談だと思って目を向けるも、お父さんの目は真剣そのもので、揺らいでいない。
…お父さんは、冗談なんか言っていなかった。
私が驚いて言葉を失っていると、わざとらしく咳をする。
笑って終わらせる昨日のお父さんとは違って、今日のお父さんは慌てているようにも見えた。

「急に、悪かった。
ただ、言うなら今しか無いと思ってな」

ドクン。
心臓の呼吸音のリズムが上がってゆく。
こんなに緊張しているお父さんは初めてだ、と感じて、サクラは静かにお父さんの黒い瞳を見つめ返した。

――そもそも、何で学校をやめる?

サクラはまだ中学二年生だった。
半年後に、受験を控えている極普通の女の子。
人一倍体力がある以外、そこらへんに居る人間とほぼ何も変わらないと言うのに、お父さんはサクラに何を求めているのだろうか。
その問の答えは、すぐに明らかとなる。

続く