え?
す、き?

待って…どういうことなの?
頭が、追い付かない。
「…返事は?」
どうしよう、怖い。断るのは当然だけど…。体も口も動かない。
「え、えと、あっ…ごっ、ごめんなさいッ!!」
私はそう告げて、まるで呪縛が解けたようにその場から走り出した。
でも、追いかけてきた彼に捕まってしまう。
「ねぇ…付き合おうよ?俺、高村先生のこと、誰よりも好きだ」
やめて。
怖い、怖い、怖い、怖い、怖いよ…!!
私は思わず彼から顔をそらす。
「嫌です…やめて…やめて」
大学生の頃の記憶がざっと蘇る。
それは鮮やかすぎる位で…苦しい。
「なぁ、こっちを向いて…美月!!」
美月、と呼ばれて嬉しい異性は、父親と武志だけだ。それ以外の人…特に、こうして交際を迫ってくる人には、絶対に呼ばれたくない。
だんだん中本先生が恐ろしく思えてきた。
普段はとても明るくて、生徒にも人気な彼。
そんな彼が、今は恐怖の対象でしかない。