「ちひろー!おめでとう!!」
教室に入るやいなや愛が飛びついてきた。

「ありがとー!ま、私の手にかかればちょろいもんよ☆」
下手くそなウインクをしてみせた。

「なにそれー!ちひろ、あんだけ緊張してたくせに~」
うっ…それを言われたら言い返す言葉はない。
なんせ、受験の一週間前からなかなか寝られず、目の下に隈をつけながら毎日学校にきていたからである。

「そ、それは内緒じゃん!(笑)」

そーいって2人で笑いながら、
だらだら過ごす高校生活が終わるって
考えたらすごく寂しい。

愛は可愛くて、優しくて、スタイルよくて、男子からも人気者。
そのくせ私なんて、the普通の女子高生って感じ。
人並みに恋愛はしてきたけど、そんなに思い出もないし、人を自分から好きになることなんてなかった。本当に平凡な人生を18年間送ってきた。

「ねえ!高岡さん!」
そのとき、隣のクラスの重盛さんが話しかけてきた。
「高岡さんって、大学合格したんでしょ?おめでと~♡でさ、ちょっとお願いがあるんだけど…」

情報収集、速っ!
重盛さんは学年の中で1、2を争うほどの
地獄耳女。
甘え上手で男にベタベタ。私のすこし苦手なタイプ。顔もそんなに可愛いとは思はないけど、彼氏がいなかった時がないほど超積極派。逆に羨ましいくらい……。

「…る?高岡さん?聞いてる?!」

「え、あ……?!」
ダメだ、一つのことに集中すると
他のことができなくなってしまう性格。

「ちょっとーお!だからね、自動車の免許取らない?勧誘しろってうるさくてさあ~♡だから、ね、ね、おねがーーい♡」

「は、はあ…。」
なんだ、この甘え方がわかってる感じは。
いちいち語尾に♡マークつけるやつ。
めんどくさいのにひっかかっちゃったよー。

「遥、超困ってるんだよね~。どーせ、高岡さんって暇人じゃん?教官も優しいしさ♡」
重盛さんって下の名前、遥っていうんだ。
てか、それよりこの子失礼かよ!

「ど、どーしよーかなー?」
愛想笑って曖昧に答えたけど、
この子には遠慮なんて頭の辞書にのってない。

「学生割できるしさ、遥も取り行ってるからー、一緒にやろうよ~♡」
ここまで来られるとさすがに断れない。
こーゆとこ、よわいんだよなー、私って。

「う、うん。わかった。」
しぶしぶ応えた。

「やったあ!!高岡さんありがとー♡遥、ほんとに嬉しいー♡じゃ、またね!ばいばーーい」
風のようにきて、嵐のように去っていった重盛さんを目を細めながら見続けた。

「愛ー、どーしよ~~~。」
さっきまでの嬉しさが真逆になる程の衝撃に泣きそうになる。
「ちひろ、まじどんまい(笑)ドライブ連れてけよ(笑)」

「頑張ります……。」


まさか、この私が人生最大の大恋愛をするなんて。
あの人のことで頭がいっぱいになるなんて、思いもしなかった。
この瞬間から、私達の間でなにかが動きだしたんだ。
目に見えない、なにかが。