おにいちゃんの友達

マドカも、両親共働きでずっと寂しい思いしてきたもんね。

私はきっと今までが幸せすぎて、こういう事態に慣れてないんだ。

「うん、ごめんね。マドカ。今日は長い時間付き合ってくれてありがと。」

私は思いきって立ち上がった。

「そんなのはいいって。お兄ちゃんのこと、うまくいくよう祈ってるよ。」

マドカも立ち上がって、私の肩をポンポンと叩いた。

その時、スマホがふるえた。

母からだった。

「もしもし、ユイカ?今どこ?」

いつもと同じセリフだったけど、母の声はいつもより緊迫していた。

「部活の帰りにマドカといつものカフェに寄ってたの。これから帰るよ。」

「お兄ちゃんが、お兄ちゃんがいないの。」

「いない?いないって?」

胸がざわつき始めた。

「朝、学校に行くって言って出かけてからまだ帰ってこないの。今日は塾だからいつもなら17時頃には帰ってきてるんだけど、何も連絡もなくて、こっちから携帯にかけても留守電なの。」

「そうなの?」

「それに、お兄ちゃんの高校からも電話があって、『ここ数日朝だけ来てすぐにしんどいと言って帰っていますが、どうかされましたか?』って。お兄ちゃん、高校ちゃんと行ってないみたいなの。どうなってるのかお母さんもわかんなくなっちゃって。」

母はパニックになってるようだった。

あゆみおばちゃんのこともあって、ここんとこずっと余裕がない状態だったから。

「とりあえず、今すぐ帰るから。」

私はスマホを切った。

マドカが心配そうに私の顔をのぞき込んだ。

「お兄ちゃんが家に帰ってこないみたい。高校からも電話があってお母さんかなり動揺しちゃってるよ。」

「ユイカも大丈夫?」

「うん。」

本当はものすごく心細くて、マドカに付いて来てって言いたかった。

だけど、このことはうちの家の問題。

マドカまで巻き込めないわ。

不安でたまらないけど、一人で向かわなければならないような気がしていた。

兄のことは、きっとマサキが連絡取ってくれるはず。

留守電になってるみたいだけど・・・マサキならなんとかしてくれるわ。

今はそう思わないと立っていられなかった。