その時、

『自分に自信を持って。ありのままの自分を信じて。』

っていうあゆみおばちゃんの声が聞こえたような気がした。

胸に手を当てて、ゆっくりと深呼吸した。

「私、」

自分のドキドキが手の平に大きく伝わってきた。

「マサキのことが好き。」

言っちゃった。

恐くて顔が上げられない。

体中がドクンドクンいってる。

「ありがとう。」

静かにマサキは言った。

とても優しい声で。

ゆっくりと顔を上げる。

視線だけマサキの方へ向けた。

マサキは正面を向いたまま、わずかに微笑んでいるように見えた。

「俺の大事な親友の妹だからな。シュンタと同じくらい大切な存在だよ、ユイカも。」

マサキは優しい。

いつだって。

意地悪しても、ちゃんとあめ玉を手に持ってる。

だけど、今日のマサキはあめ玉じゃなくって、そんな簡単な物じゃなくって。

きちんと私に心と言葉を届けてくれた。

そんな気がした。

初めての告白と初めての失恋。

なのに、こんなにも心が澄んでる。

自分の固くなっていた気持ちもふわふわとやわらかい綿帽子のようになっていく。

人の言葉ってすごい。

たったこれだけで、こんなにも自分の奧の方からやわらかく変わっていく。

今までの自分じゃない新しい自分が生まれてくる。

しっかりとマサキの目を見て言った。

「これからもお兄ちゃんの妹として、変わらず仲良くしてくれる?」

「うん、もちろん。」

空はオレンジから藍色に染まっていく。

暗いのは嫌いだけど、マサキと一緒ならちっとも嫌じゃなかった。

言えた。

マサキに自分の気持ち言えたよ。

あゆみおばちゃんが言ってた一歩、踏み出せたかな?私。

マサキの姿が少しずつ藍色に包まれていく。

明日の自分が待ち遠しい気がした。

私の初恋がマサキでよかった。

太陽が沈んでいくのを見ながら、マサキと二人、何も言わず駅へ向かって歩き出した。