おにいちゃんの友達

「また来週ゆっくり話すよ。マドカ、いつもありがとね。」

「うううん。全然。また来週ね。」

そしてマドカの電話は切れた。

次に母に電話をする。

兄と無事会えたこと、今マサキと兄が二人で話してて待ってることを伝えた。

「お兄ちゃんと気をつけて帰ってきなさいよ。また帰る時連絡して。」

「わかった。」

「お父さんも心配でさっき帰ってきたわ。」

「ふぅん。珍しいね。いつもより随分早いじゃん。」

「そりゃ、我が子が心配だもの。」

「早く帰れるんなら、時々早く帰ってくればいいのにね。」

母は電話の向こうで、小さな声で「そうよね。」と言ってこっそり笑った。

父も仕事が忙しいらしく、ほぼ夜ご飯は外で食べて来た。

早くても21時より前に帰ってくることのない人だったから、今日はとても早いご帰還だ。

兄も久しぶりに父の顔が見れるんじゃないかな。

父にも怒られるかもしれないけどねぇ。

私はとばっちりがこないようさっさと部屋に戻って寝ようっと。

さっきまでベンチでしゃべってた学生達はいつの間にかいなくなり、随分人気が少なくなってきた。

そろそろマサキ達の話も終わってる頃かな・・・。

兄達のいる場所へゆっくりと戻って行った。

茂みの向こうから、マサキの声が聞こえてきた。

「おばさんと話が出来てよかったじゃん。それにしてもお前もほんとくだらないことで悩みすぎなんだよ。」

「くだらないこととはなんだよ。マサキにとってはくだらないことでも俺にとっては本気だったんだ。」

「ま、そうかもしれないけどさ。」

「マサキはいいよ。全ては思い通りに運んでるじゃん。進路だって明確に決まってるし、迷うところがない。だけど俺はさ、勉強だけしてきて、今更自分の進路なんてつきつけられたら、これまでの自分に全く自信が持てなくなっちゃったんだ。」

「何が自信持てないだよ。十分お前はよくやってきたし、これからだっていくらでも選択肢はあるじゃんか。俺は選択肢がないだけ決めやすかっただけさ。」

兄は力なく笑った。

「結局、そんなだめな自分でも、自分を信じて進んでいくしかないんだよな。」

あゆみおばちゃんの格言だ。

「そうさ。慌てることないさ、将来のことなんて。進んでいきながら見つけたって遅くない。」

「うん。そうだな。」

暗闇の中、草木を揺らしながら風が吹き抜けた。

「んじゃ、とりあえず、来週からは学校もちゃんと行くんだよな?」

「ああ。行くよ。」

「ユイカも随分心配してたぞ。真っ白な顔して俺のクラスまで走ってきてさ。びっくりしたよ。」

「ユイカが?そうか。そんな大事になっちまってるなんて・・・悪かったな。」

私のことしゃべってる。

ドキドキしながらマサキの声を聞いていた。

こっそり聞くのって、なんだか悪いことしてるみたい。

だけど、しょうがないもん。一人で公園で待ってるの恐いし。

「シュンタ、お前、まだ俺に言えてないことあんじゃない?」

マサキが突然切り出した。

「言えてないこと?」

「将来の不安以外に、まだ俺に言えてないことないか?」

「・・・どうしてそう思う?」

「俺、ずっと前から気になってたことがあってさ。」

何?

さっき、マサキが私にも尋ねてたことと関係ある?

私が聞いちゃいけないこと?

茂みの向こうの二人の声に、さっきまでと違う緊張が高まったような気配がした。