3月7日

私は卒業式には出れない事がわかった。
明日の夕方にこの家を出るからだ。家の中には食べ物少しと寝巻き、なぜか寝袋程度しかなかった。もう鬼呪神城の方に送られているからである。
亜沙飛君は今日転校して行った。クラスの皆は疑問に思っていたと思う。この事を知るのは亜沙飛君と私の家族だけだから。

明日の学校が終われば全てが終わる。
友達もクラスの皆との思い出も…何もかも。
鬼呪神城村ではうまくやっていけるのだろうか。姫として務まるのか。亜沙飛とも上手くいくのだろうか。私の頭の中はそんな不安で押し潰されそうになっていた。
ユキちゃんこと白虎は私を元気ずけようと努力しているけれど、ユキちゃんも村へ行けばお別れになっちゃう…。私の力でどうにかなるのかな?でも、出来なかった時どうしたらいいんだろう。
「瑞葉?瑞葉!」
「……」
「ごめんなさい…普通の子に出来なくて、こんな仕打ちをさせて……本当にごめんなさい…」
「お母様だけのせいじゃないよ……お母様はお母様自身を責めないで……。だって、外国じゃなになに族ってたくさんあるじゃん…それと同じだよ」
「そう…なのかしら……」
「そうだよ!私が言うんだから!」
「…」
「瑞葉、明日は皆にお別れを言ってくるんだよ」
「はい。お父様」
「今日はもう遅いから寝なさい…」
「はい。お母様。……おやすみなさい」
と、告げてリビングを出た。そして、部屋につくと扉の前でユキちゃんが待っていた。
「明日やな…」
「うん」
「元気だしな…ミーはそんな顔見たくない」
「……うん」
「だ・か・ら、暗い!」
「うん……」
「……。明日学校まで行ってやるから!寝た寝た!」
「うん。おやすみ。白虎…」
と、言って床についた。



3月8日

「うーん……」
と、私は背を伸ばした。すると、部屋に白虎が入ってきた。
「おはよう。瑞葉」
「おはよう。白虎」
いつもと同じ会話から朝が始まる。私が鬼呪神城村に行ってからもこんな会話はできるのかなと、ついつい考えてしまう。そう考えつつ寝巻きから制服へと着替える。そして、時間割を整理する。
「今日で最後かぁ……なんか、そんな感じしないなぁ……」
「冬休みに入る前にもそんな事を言ってなかったっけ?」
「嘘っ!?」
「確か…だがニャー」
「……」
「瑞葉ぁぁ!瑞葉ぁ!朝ご飯よ」
「あ、はーい!白虎行こ!!」
「ニャー」
私は部屋を後にした。

「おはようございます。お母様!お父様!」
「いつにもなく元気ね。瑞葉」
「そうだな……」
お父様、お母様はいつもと変わらずだった。お父様はいつものように新聞を見て私に話す。お母様はキッチンから料理を運びながら言う。
(こんな楽しい日々は今日で終わりなのかな?)
私は椅子に座り手を合わせる。次にお母様は私の隣に座る。お父様は新聞を置いて手を合わせる。
「いただきます!」
いつも通りの食事。
いつも通り過ぎて気が乗らない今日の私。まるでお父様とお母様が変わったように思えて仕方が無い。

私は食べ終わると席を立ち自室に戻りリュックを取り玄関へ。
「行ってきまーす!」
この言葉もさいごなのかな?
何気ない言葉ひとつひとつが最後に感じてしまう。不思議な感じだ。
「おはよう!」
「あ!凛(りん)ちゃん!おはよう!」
この会話もいつも通り。
「今日の授業知ってる?」
「え、なになに?」
「自習があるみたい!」
「本当!?」
「クラスの男子が言ってたよ!」
「男子かぁ…頼りにならなく無い?」
「ま、まあそうだね。でも、掛けてみるのも面白くない?」
「そうだね。ふふふ」
「でしょっ!うふふ」
いつも通りのくだり。いつも通り笑う。やっぱり不気味に感じる。亜沙飛はどう思ったんだろう。何の音沙汰も無く学校を去った亜沙飛は…。
「どうしたん?瑞葉?」
「ん、ああ。亜沙飛君さ急に転校したよねって」
「あー!あいつねぇ。なんか不思議君だったよね!必要最低限しか話しませーんみたいな感じでさ!そのせいか友達っていう友達もいなくて。そんな状況下に置かれてたから…とか?」
「亜沙飛君、そこまで弱い子じゃないと思うんだけど…」
「人は見かけによらず…だよ!」
「何の話してるの?」
「楓琳(かりん)ちゃん。おはよう!」
「えっと、亜沙飛の話」
「あー、急に転校した亜沙飛君ね。私、楓琳も不思議で仕方が無いわー」
「もっと不思議なのは瑞葉だけどねぇ」
「え?」
「瑞葉からあいつの事持ちかけてきたんだよ?」
「へぇー…気でもあったの?瑞葉?」
「えっ?ただ単に気になったからだよ。こんな卒業間近にさ……(私も言える立場じゃないけど……)」
「なるほどぉ……。こうとは考えられない?えっと、亜沙飛君って頭いいって言う噂が本当だとして…頭のいい高校に行くのに遠いから……」
「なるほど!楓琳ちゃんさっすがー!」
「えっへん!」
「……(理由…知ってるんだけどね……)」
「あ、学校着いちゃった……私は先にオサラバ!ばいばーい」
「楓琳ちゃん昼休みねー!」
「了解っすーー!」
「じゃあ、私もオサラバ!昼ね!」
「うん!バイバイっ!」
私は自分のクラス────3年A組に入った。
凛ちゃんも楓琳ちゃんも別のクラス。別れを言うに言えなかった。昼休みも時間はあるけれど、きっと言えないとわかっていた。

HR
「HRを始めます」
3年A組の担任 水島 一輪花(みずしま しずか)が話す。
「まず始めに、残念なお知らせが皆さんにあります。鬼城 瑞葉さんが転校なさいます。皆さんと共に卒業を出来ない生徒が増えて寂しいものです」
私は先生に前においでと言っているような眼差しに感じた。私は教卓の前に立つ。
「…」
「明日にはもう学校に来ないようなので今日1日を思い出にさせてあげましょう」
(そんなの…いらないよ。余計辛くなる。)
「そして…………(略)」
(亜沙飛君は……どういう気持ち…だったんだろう)
「それでは、HRを終わります」
終わった瞬間クラスの皆は背伸びをしたり色々し始めた。私のクラスは一番HRが短い為、チャイムが鳴るまで廊下に出る事が出来ない。
「ねぇねぇ…鬼城さん?」
「な…なに?」
急に話し掛けてきたのは、学級委員長の石黒 すみれだった。いつもの通りすみれの後ろには森坂 陽菜実(ひなみ)。
「どうして急に転校なんか…」
「家庭の事情よ」
「亜沙飛君も転校しちゃうし…きじょ…ううん、瑞葉ちゃんも!陽菜実…寂しいよ」
「陽菜実…すみれ…。……こう考えるとさ私達って全然話した事が無かったよね。何で話さなかったんだろうって今更だけど思うよ。いつも見ているはずのあなた達に」
「私もそう思うわ……」
「陽菜実…も」
陽菜実は今にも泣きそうなくらい目に涙を溜めていた。
すると、私の元に幼馴染みの如月 睦月が来た。
「お前…何でまた……黙ってた?」
「そ…それは」
今言えば、睦月の事は正直苦手。喧嘩っ早いし自分中心になりがちで。
「幼馴染みの俺にだけでも教えてくれたって良いじゃんかよ。もう…2度と会えないのか…?」
「多分…」
「……」
「急に決まった事だから…変えることは……出来ないの」
「…亜沙飛だってどっか行っちまったし……」
「……」
「……とにかく!頑張れ!瑞葉!」
「…!」
(怒りだすかと思ったけれど…睦月……ありがとう)
視線を睦月に合わせると、笑みをこぼす睦月がいた。
「じゃあな!」
と、手を振り睦月は友達の元へと戻る。
そして、チャイムがなった。



(今日はいつもより早く感じたな。お別れもあんまり言えなかったし)
学校が終わり、両親が荷物を車に積んでいる間部屋にこもっていた。
「夕日…綺麗だな」
「そうだねぇ。そうそう、学校はどうだった?」
「…いつもより早く感じたよ。それに、」
「それに?」
「やっぱりなんでもない」
「そうか…」
「瑞葉〜。準備できたから降りて来なさい」
「はーい。…さようなら。大好きだったこの街よ」
そして、私は白虎を連れて下に降りた。そして家の外に出るとトラックがあり父と話す男性がいた。そして私の存在に気付いた母は、
「この娘が瑞葉です」
「こんにちは。瑞葉様」
「こ、こんにちは」
「私の名前をお教えしておりませんでしたね。私は、神道 晶永(しんどう あきなが)。亜沙飛の叔父です」
「は、はあ」
「これから、亜沙飛の事をよろしくお願い致します」
「はい…。あ、あのぉ…」
「何でしょうか?」
「亜沙飛はもう村に…?」
「はい。亜沙飛は瑞葉様をお待ちしております」
「…そうですか」
「お荷物の方は私目がしっかり村までお持ち致しますので御安心を。そして、村までの案内もさせていただきます」
「…よろしくお願いします」
「では、慶太さん運転の方を。私目はトラックの運転を致しますので」
「わかりました。瑞葉乗りなさい」
「うん…。ユキ…行こうか」
「ニャァ」
そして、私達は村に向かって行った。