「おーいってば」


碧はぐしゃり、とその紙を握り、声の主、緋色の方へ体を向けた。
首の後ろの熱さを隠すように手で覆う碧に緋色は見透かしたように隣に座った。
「んで?なにしてたわけ?」
昔からこんな奴だったな、と苦笑いが漏れる。
なぜいつもそうなのか、と尋ねたときこいつはなんと答えただろうか。
それほど遠い昔だっただろうか、それともいつものようにはぐらかされたのか、とにかく自分にとって分かりにくいことだった気がする。
「いや、少しな」
ごまかしても無駄なのはわかるのに、言えないのは若干の矜持が本音を邪魔する。
「お前はバカだから、隠せねえよ。」
そう言いながら俺の頭を雑に撫でる。
せっかく梳いてもこいつがいる限り俺の髪はきれいにならない。
こいつに言われると俺は、年下なのだ。
どのくらい生きたかはわからないが、そこそこ生きてるのにな、なんて思うが、力は明らかに下だから、まあ良いかとも思っている。

「なあ、緋色。」

自分でも小さいと思う声がでた。
それでも、どんなに小さい声でも自分の周りの声は聞こえる奴だ。
少し羨ましくもあるが、なりたいとは思わない。
「あ?」
もう話が終わったと思われてたようで、手元の本から目を離さず言われた。
間抜けな声に頬を緩めながら、なんでもない、と答えると、むこうも笑いながら俺に寄り掛かってきた。
この重さが昔煩わしかったのを思い出す。
ジンベエ、と呼ばれるこの服はこいつらにもらったもので、この服を貰ってとき俺が、こいつらと一緒に暮らすまで、ずっと人肌が嫌い、いや苦手だった。
今ではもうこれがないと死にそうだがな。