名前を呼んだけど、ちょうど通ったトラックの音に消されてしまった。
「ヒカ……」
もう一回呼ぼうとしたとき、信じられない光景が目に入った。
ヒカルが手を挙げ、駆け寄ってくる女の人。
あのバイトの人だ。
そのままの勢いで、ヒカルに抱きつくその人。
笑うヒカル、そのまま……
キスを。
眩暈がした。
足元からひっくり返りそうな感覚。
自分の血の気が引くのがわかった。
呼ばなきゃ。ヒカル。
そう思っても声は出ない。
ヒカルの所へ行こうと思っても、足が竦んで動かない。
そしてそのまま2人は笑顔でどこかへ行ってしまった。
それが、私の人生で初めての失恋だった。
浮気という最悪の形で終わった。
ワタシの何がいけなかったのかはわからなかった。
でも多分、ヒカルの気持ちは、かなり前から離れていたのだろう。
「そんなやつ、今すぐ殺してやりたいよ…… 」
珍しくミキが怒っていた。
でもワタシはもう、何の気力もなかった。
ヒカル問い詰める気力も、
怒る気力も。
ただ、どうして?の気持ちでいっぱいだった。
