悪夢から蛇

「ごめん。でも、先に帰っててもよかったのに」

「そういうわけにもいかないだろ。お前は協調性って言葉を知らんのか」

「キョーチョーセー?」

「知らない言葉みたいに言うな!」

 頭を思いきりはたかれた。

「協調性ね。うん、分かった。覚えとく」

「本当か? 信彦の自己チューは一生治りそうにないけどな」

 僕に対する周りからの評価の第一は、昔からいつも“自己チュー”だった。

そしてそれは自分でも自覚している。

他人からどう思われているかとか、そういうことが全く気にならないので、つい思ったように行動してしまうのだ。

「自己チューは悪いことじゃないぞ。僕の場合は我を通して迷惑をかけてるわけじゃないし、それに──」

「うん、そうだな。もういいから、早く帰ろう」

 必死の弁明はあっさりと光に遮られてしまった。

早く帰る、というのに異論はない。

最近は夢のせいでよく眠れていないので、そろそろ帰って家でゆっくり寝たかった。

自己チューを正当化するのを諦め、素直に帰ることにする。

「帰りますか。寝不足だから早く寝たい……ふぁ~ぁ」

 寝ると口に出して言った途端、盛大にアクビが出た。