悪夢から蛇

「何十回も夢の中で死んできたんだろ? どれくらい幸福になるのか考えると、末恐ろしいくらいだな」
 
 光が可笑しそうに茶化してくる。

他人事だから楽しんでいるのだろう。

「問題もめでたく解決したことだし? そろそろ帰ろうか」

 死ぬ夢は幸福なことだと夢占いで決めつけられただけで、何の解決にもなっていない。

健司もそう思っているようで、言葉が疑問形になっている。

 しかし、誰もこれ以上この話題を続けようとはしなかった。

どうせただの夢だ。

僕と同じように、三人ともがそう考えているからだろう。

 余計な話を持ち出して帰るのを遅らせてしまった。

少し後悔する。

「ほら、早く。時間がない」

 どうやら健司には早く帰りたい理由があるらしく、追い立てられるようにして教室から追い出された。

 早足で先導されてすぐに下駄箱に着く。

 革靴を履いていると、柚香が健司に話しかけているのが聞こえてきた。
 
「ねぇ、健司はさっき帰ろうって言ってたけど、まさか家に帰るつもりじゃないでしょうね」

「うん?」

「今日は映画に行く約束してたでしょ。まさか忘れたりしてないよね?」

 健司が視線を反らす。