右京が挨拶をしたはずなのに、誰も何も言わない。
右京はもうすでに撃沈していた。

その沈黙に耐え切れずに、譲二が右京に声をかけた。


「右京っていい名前だね。
レーサーの片山右京と一緒という事はお父さんが車好きとか?」


元レーサーで車好きの譲二は、律の選んだ相手は確実に車好きだと思い込んでいる。
右京は自分の立場が不利な事に十分気付いていた。

味方になりそうなお父さんに、自分は運転はできませんと言う勇気はない。


「自分の父は運転は好きでした…」


…嘘はついていない。


それでもこの重苦しい空気は続いている。


「今日、右京さんは顔見せにきてくれただけ。
だから、長居はするつもりはないの。

私の結婚する相手はこの人だから。

よろしくね」


律はそう言うと、右京の手を取って立ち上がった。
右京はちゃんとした挨拶文を考えていたのにそれすらぶっ飛んでいた。


「律、待ちなさい!!」


その声は重く地面の底から響いてくるようだった。




伊集院貴子、降臨…