ただ、どうしようもなく胸が痛い。 優しく、綺麗な香の変貌ぶりに、心が破れそうだった。 どうして、 こうなってしまったのだろう。 ようやく、香の気持ちが朝比奈に向き、やっと恋人らしくなっていた二人だった。 悲劇は突如、 前触れもなく起こった。 きっかけは、 電車の中のことだった。 「あの人、痴漢です」 香は、整った顔に表情を浮かべることなく、犯人を告げた。