思わず口を覆う薙沢 向日葵(なぎさわ ひまわり)。

「何…ここ…?」

100平方キロ近くが、一般の立ち入りや農地利用を法律で厳しく制限されている。

その理由は、いまだに世界大戦の戦場跡に残る、夥しい数の遺骸や不発弾が回収しきれていないからだ。

「ゾーンルージュだ」

本城 隼人(ほんじょう はやと)が呟いた。

フランスとその風光明媚な田舎の風景を思い浮かべる時、絵のような村や広大な葡萄畑、夏にうねった道をご機嫌なドライブのできる、どこまでも続く緑の丘などを想像するかもしれない。

しかし、こんな美しい風景の片隅に、1世紀近くも人の立ち入りが禁止されたこの場所はある。

第一次大戦後、途方もない数の不発弾や人間や動物の遺骸の回収が追いつかず、フランス政府は該当地区の住民の強制的な移転を決め、立ち入り禁止区域にした。

地図上から丸ごと抹消された村『デュオモン』は、戦争の犠牲者だと考えられた。