離れた位置から、黒人の手元の拳銃を弾き飛ばすほどの威力を発揮する虎撲烈波。

その脅威に遂に恐れをなし、黒人達は龍宇からの略奪行為を諦めて逃げて行く。

黒人達を追い払った後。

「騒がせてしまってすまなかった」

通りの人々に一礼し、龍宇は再び歩き始める。

旅の途中とはいえ、他所の国に入ればその国の流儀に従う。

不要な騒ぎを起こした時は、非礼を詫びる。

剛毅木訥とした性格は、長い旅の中でも変わらない。

…再び通りを歩き始めた龍宇は、ある光景に立ち止まった。

7歳くらいの難民の少女が、毛布を抱き締めて道端で眠っている。

その近くには母親らしき女性の姿も。

少女の傍らには、拳銃を持った男の絵が置いてあった。

少女が書いたものだろうか。

その少女…シェドは絵を描くのが好きだが、最近はみんな武器の絵ばかりだ。

「武器がどこにでもあって、四六時中、目に入るから」

道路でシェドが眠っている時に母親が説明した。

この絵は以前の絵。

最近はシェドは全く絵を描く事はない。

逃げてきているので、紙もクレヨンも買ってやる事ができないから。

シェドは遊ぶ事もしない。

逃亡は子供達を無理やり大人にしてしまい、起こる事を大人と一緒になって心配する。

食べ物を見つける事も難しく、道路脇の木から取ったリンゴで数日しのがなくてはならなかった。

逃亡がこれほど大変な事だと知っていたら、隣の母国で生きる危険を選んだだろう。