魅ノ狂夢ー侵食ー

私は、バス停を2つ越えた辺りで下車のランプを押した。
バスが速度を下げはじめると、私の鼓動がドクドクと脈打つのがわかった。

「緊張してるの?私…」

雅仁が、製薬会社に内定が決まった、その数日後に、私は雑誌の記者になった。
旅行特集や、今流行りのお店を調べて取材させてもらっている。
でも、今まで面接でもこんなに、心が脈打つことはなかった。もちろん仕事でも、そのおかげで、高級ホテルやレストランの取材を、させてもらえるくらいになったのだ。

バスが停まる。

ゆっくり立ち上がり外へ向かおうとした瞬間勢いよく誰かとぶつかった。

「あっ……いた」

倒れた拍子に腕を切ってしまったようだ。

「あ……すみません、急いでいたので……」

(綺麗な人、)

「えっと、落ちます!」

何故か、緊張してしまいそそくさと、バスを降りる。