「確か、リビングのテレビ台の引き出しだっけか…」

ボソッと口に出して、恐怖を紛らわした。
廊下の角を曲がって、真っ直ぐ行けばリビングだ。
壁を伝い、ゆっくり角を曲がるとリビングに灯りがついていた。
 
「…母さんか?」

リビングのドアに手をかける。

ーーーあのこが欲しいーー

母親じゃない、歌声が聞こえる。

ーーー相談しましょうーー

茜?の声に聞こえた。
ドアを開け歌声の主に問いかけた、

「…茜?おま…え…何時まで…」

ーーーーーあなたが欲しい?ーーーー

茜の雰囲気が、おかしいでもなにが?

「雅仁?まさ…ぅ…会いたかった…。」

茜が振り向く、潤んだ瞳と目が合う。

「あ…泣くなよ…。俺はお前を、幸せにしてやれ無いんだ…お前が、辛い思いをするのは嫌なんだよ。」

茜は、ソファーから立ち上がり勢いよく抱きついてきた。

「雅仁の馬鹿…私、支えれるよ。私、雅仁のこと大好きで、離れることなんてできないよ。」

俺は、ただ立ち尽くす。
本当は、抱き締めてやりたい。
しかし、彼女が選ぶ道は苦痛になっていくんだ。
俺は浅はかな気持ちで茜と、付き合った訳ではない。

「茜…ありがとう…でもな…っ」

ズキンと頭が痛み、俺は茜にもたれこんだ。

「雅仁!?どうしたの??」

茜の声が、聞こえなくなっていく。
頭が脈打つようにズキズキと痛み、それと同時に意識が遠退く。

ーーーーーあなたが欲しいってーーーー

マネキン?

ーーーーークスクスーーーー

頭の痛みと共に響く。

ーーーーーぼくが…ーーーー

俺は、マネキンの言葉よりも先に気を失った。


なんだか、気持ち悪いくらいじめじめとしている。
頭に、痛みなどなくなっていた。
ゆっくり目を開ける。

ーーーーー雅仁おはよぉーーーー

顔が近い、驚いてマネキンから離れた。

ズルっ

手に生暖かい何かが触れる、薄暗いここは何処なんだ…

ーーーーークスクスーーーー

マネキンの、瞳に潤いがある。

「お前…人形じゃないのか…。」

ーーーーーぼくは人形じゃないよ、可笑しいこというねーーーー

そうか、夢だ。夢の中の存在だ。

「俺の勝ちだろ…」

ーーーーークスクスーーーー

マネキンは、俺の顔を両手で触った。

ーーーーー夢って、眠ってるあいだはリアルだよねぇーーーー

夢だったと?

ーーーーーさて、暗がりでお話するのもちょっと気持ち悪いかな?ーーーー

マネキンは紐で操られているかのように、すっと俺から離れた。
それと同時に、灯りがついた。眩しい

ヌメっ

「...ひぃい」

血液の臭いが充満している、赤くブヨブヨとした何かが、積み重なり赤い汁を滴らせている。
ここは、俺の部屋…
 
その部屋の光景が俺に、死と言う物を感じさせた。
体がガクガクと、震える。

ーーーーークスクスーーーー

マネキンが、俺の手先を見つめた。
俺は、ヌメっとする何かに目を向けた。

「あ…あ…あか…」

茜の頭が落ちている、触れた箇所の肉がずるっと落ちているが、間違いなく茜だ。
声が出ない。ふと目線を、外らす…しかし、それすら余裕を与えなかった。

そこら一面茜の頭が、ごろごろと転がっている。

ーーーーー素敵でしょ鬱陶しいから、ぼくがぐちゃぐちゃにしてあげた!ーーーー


吐き気が酷い。

ーーーーーそこは、あたまでこっちが剥いだ肉で、こっちが骨だよーーーー

もうやめてくれ。覚めてくれ…酷い

ーーーーークスクスーーーー

顔に、したっと何かが降ってきた。
恐る恐る見上げると、勢いよく赤い何かが降ってきた。

ーーーーーほら、臓物もあるよ。汚い汚い、鬱陶しいクズ女の臓物ーーーー

血液が、目にはいったが俺はマネキンを睨む。

「…なんで、こんなこと。こんなことで、お前が俺の精神を侵食しようってか?そうだったら、俺はお前が見せてるこの夢に、負けない。彼女が、鬱陶しいとかお前に関係ない。お前が、俺に彼女を殺して見せても現実の彼女は、生きている!」

ーーーーークスクス…雅仁ぼくが、個人的に邪魔だと思ったから、そうするんだ。雅仁現実の彼女が、どうかって夢の中の君にわかるのかい?ーーーー

確かにそのとおりだ。負けたくはない。

「でもお前は、俺の作り出した夢だろ!」

ーーーーークスクスーーーー

どうして嗤う。

ーーーーー言ったでしょ、ぼくは個人だってーーーー

マネキンが、耳元で呟く。
一瞬にして、距離を縮められた。
俺は、こいつに何回殺される?
茜の無惨な姿が、俺の思考を狂わせる。

ーーーーー雅仁、ぼくは君が大好きなんだーーーー

マネキンが、腕に絡み付く。
殺気と言うのか?それとも、狂気?

絡み付いた、腕がギチギチ音を立てて砕けそうだ。

「うっ…やめ…」

ーーーーー雅仁ぼくの名は、パンドラ。神話に被せたんだね。でも、足りないの…足りない…。パンドラは、綺麗な人形だよ…僕は君が言うとおりマネキンだから足りない…もっともっと、必要なの美しい姿がーーーー

「は…な…せっ」

ーーーーーこの転がった、女は美しい…だから足りない…ぼくの贄にしたんだーーーー

どうゆう意味だ。
俺の腕から離れたパンドラは、茜の頭を拾った。

ーーーーー雅仁、みてぼくだけをーーーー

茜の頬を、食いちぎった。
飛び散った血液が、顔にかかる。
思わず顔を覆った。
ぐちゃぐちゃ音が聞こえる。
手に、飛沫がかかってくる。

悪夢だ。恐ろしい。

ーーーーーどうして、隠すの?ーーーー

恐ろしい。

ーーーーーねえーーーー

恐ろしい。

ーーーーー雅仁?ーーーー

恐ろしい。
覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ!

冷たい手が、覆っていた俺の手を引っ張った。

「やめろぉ」

ーーーーーねえ、人間っぽい?ーーーー

血まみれの、パンドラは潤った瞳で俺を見ている。
人形の体だが、顔が瞳が唇がまるで人間のようだ。
恐怖と違和感の中なぜか、パンドラが美しいと思ってしまうのだ。

ーーーーーはじめは、土だったーーーー

青い瞳整った顔、そしてぎこちなかった表情が、人間になったようだ。

ーーーーー気がついてくれたのは、ぼくの頭ができてしゃべった時ーーーー