湿度のある、静かで冷たい暗い部屋。
書き潰されて、ぐちゃぐちゃになった俺が、今生きているのか死んで居るのかわからない。
医学書道理の、診察意味なんかない。
人間は、集団行動が出来るか、できないかで生きていけなくなるものだと、頭のなかで解釈してしまう。
俺はこの重苦しい体と、脳内を埋め尽くす死と言う言葉で縛られ半年が経つ。
憎んでも、妬んでももう気力も体力もない。
食事をしたのが、いつだったか覚えてない。
ただ、激しいのどの渇きを潤すためミネラルウォーターだけを、ひたすら飲んでいた。

天井をただ眺めて、時間がただ過ぎていくなかで、ドアを叩く音がした。

「雅仁、食事とれてないの?」

ドアの向こうから、元カノの声がする。

「たまには、少しでもお話しよ」

俺は、彼女を信じられなかった。
彼女が何かしたわけではない、俺がこれ以上の裏切りを拒絶したかったから、俺から一方的に別れを切り出した。

「雅仁、私は側に居たいの。私は、支えたい。」

涙声だ。
泣かせてるのは、俺で情けないのもわかってる。
ただ、茜には他の誰かと幸せになって欲しい。
俺は、茜から逃げた最低な人間なんだ。

「茜ちゃん?ごめんね、雅仁調子よくないのよ。泣かないで?」

母親の声だ。
茜の、泣く声が遠ざかっていく。
時間がたてば、忘れてくれる。
ただ、茜が俺を忘れてしまうのは、痛くない訳ではない。

逃げても、俺は未練たらたらだからだ。

俺は、睡眠薬を飲み無理やり眠りを誘った。

暗く湿った空気が、肺に入って心音が穏やかになって、俺は眠りについた。

ーーーーーおかえりーーーー

ゾッと、背筋が凍る。
まただ、また奴が居るのか?

ーーーーー雅仁ねぇ、ぼくと話してよーーーー

「また、お前か…」

クスクスと嗤う声が響く。

ーーーーーねぇ覚めない夢ってあると思う?ーーーー

肩を叩かれ、反射的に体が跳ねた。
振り向くと、白髪短髪の性別のわからないマネキンが、車椅子にのって微笑んでいる。

「気味が悪い、触るな...」

ーーーーー酷いなぁーーーー

口がパクパク動いている。

ーーーーー雅仁、ぼく退屈なのーーーー

マネキンは、ぎこちなく立ち上がった。

ーーーーー雅仁も同じでしょ?だからさ、ゲームをしようーーーー

クスクスと嗤う。

「ゲーム、所詮すぐに終わる夢だろ。」

付き合いきれない。夢を見るたびこのマネキンが、出てくる。

ーーーーーそう夢だよ、だから覚めるか覚めないかゲームをしようーーーー

夢は、覚める。

「ゲームに、なりやしない。俺は、薬で寝てるだけで切れれば起きる。」

ーーーーーじゃあ、覚めなかったら?ーーーー

「覚めるだろ。」
しかし、自信に満ちた声だ。

ーーーーーゲーム決定だねーーーー

馬鹿馬鹿しい。

ーーーーーそうだな僕が、君の脳内を侵食できたら勝ちーーーー

「侵食?」

ーーーーーそうだよーーーー

「所詮夢だ。負けるわけないだろ。」

ーーーーーふふふっ、じゃあ~始めようかーーーー

マネキンが、俺の頭を触った瞬間俺は、目眩で気を失った。

気がつけばそこは、俺の部屋だ。
静かで冷たい。カーテンを捲ると外は、夜だった。

「…んっ」

ガンガンと、頭部に痛みがはしる。

「副作用か?結局夢だったな。」

なぜか、安心した。いつもと変わらない自室だ。
ミネラルウォーターを、勢いよく飲み頭の痛い箇所を、探る。

「...?」

マネキンが、触れた箇所が痛む。
一瞬冷や汗が流れるが、たまたま痛むのだと言い聞かせ落ち着かせた。

「薬切れてたな、鎮痛剤とりにいくか…」

なんとも目覚めが悪い。
ドアの鍵を開け、痛みをこらえながら廊下を歩く。