「・・・・冗談でしょう?」

お昼時、暖かい日射しを浴びながらとある学校の教室でお弁当を食べる二人組。
一人はみすゞ、もう一人は友人。

『俵 万智』
金子みすゞの友人
得意科目、現文

昨日と今朝の出来事を万智に話したのだが、にわかには信じられない様子。
再度確認

「本当にそんな奇人がいるの?」

「気分が悪すぎて保健室で休んだのよ」

今も若干顔色が悪い。
万智は何も言えなくなり、卵焼きを箸でつつきながら質問する。

「ただの変人でしょう?そこまで気にやむ事ではないわ」

こういったのは放置が一番だと万智は考える。相手が変態ならば尚更だ。

だがみすゞは肝心な事を話していない。
相手がオープンなストーカーだという事を万智に話していない。

「また何かあったら言って」

「ありがとう」

万智の暖かい慰めにみすゞは感謝する。
誰にも何も言えなければ恐らく病院コースへ直行だったであろう。

食事を終え、みすゞは図書室に向かう。高校に置いてある本は、参考書や求人表、大学のパンフレットなどが圧倒的に多いが、ちょっとしたラノベや、賞を受賞した本も少なくない。

「金子、また来たのか」

深海の様な濃い蒼の髪を丁寧に整え、柔らかい翠の瞳を浮かべる青年。
スーツはピシッと決めている、教師だ。

「中島先生、こんにちは」

『中島 敦』
古文の教員
好きな物、夏みかん

「朝は保健室に居たそうだな大丈夫か?」

まだ教師として日が浅い中島は、参考書を両手いっぱいに抱えている。

みすゞのクラスの副担任として、心配してくれているのだろう。優しい人だ。

「はい、楽になったので大丈夫です」

昨晩は良く眠れなかった、それが影響したのだろう。
中島は満足そうに頷く。

「体調管理は人として気を付けなければならない、怠るなよ」

「はい・・・先生、学校付近で不審者の目撃情報は出ていますか?」

みすゞからの意外な質問に中島は不思議に思った。

突然どうしたのだろう

しかし、質問されたからには答えなければ
ならない。中島は思考を巡らせる。

「いや、特に出ていない。どうかしたのか?」

みすゞは考える。特別害は無いように見える?が、私事で教師に迷惑を掛ける訳にはいかない。

けれど、母に話せば余計心配を掛ける。
最悪、高校を転校させられるかもしれない

「言いにくいなら構わないが、話しだけでもどうだ、スッキリするぞ」

みすゞは思った、私の周りの人は何と心が広いんだ。

「そうします、実は・・」

話した、昨日出会った変人に話掛けられあまつさえ個人情報まで漏洩してしまったことを、包み隠さず全て。

しかしどうだろう、話を聞くにつれ、中島の顔は徐々に青くなっていき、最終的には
白くなった。

もちろんみすゞは驚いた。
何か余計な事を口走ってしまったのだろうか?
兎に角、中島に声を掛ける。

「先生、大丈夫ですか?」

我に帰る中島
だがどこか慌てた様子。

「悪い金子、用事ができたからこれで失礼する!」

足早に図書室から去っていく。

状況が飲み込めず、みすゞは首を傾げる事しか出来なかった。