それから1時間くらいした頃、玄関のドアが開く音がして。

「ただいまー……」

なんとなく疲れたような声をした彼が、リビングへと入ってくる。


「おかえり、遅かったわね」

「あぁ、営業先との打ち合わせが長引いた」


ママと話をする彼が、ふと隣にいたあたしへと目を向ける。


……どきん。

高鳴る心臓の音に耐えられそうもなくて、一瞬、そのまま目を反らしそうになってしまった。


でも、それじゃあ前に進めない。



「美未ちゃん……ただいま」

ちょっと不安げな表情でそう言った彼に、あたしは満面の笑みで答えた。


「……おかえりっ!
今日は鍋だよ。早く食べよ」

「え……?」

「いいから!早く!!」


そんなあたしたちのやり取りを見て、ママは優しく微笑んだ。