隠そうとしていたわけじゃない。
ちゃんと言おうって決心していた。
だけど、思ったより早いママの帰宅に動揺したのも事実。
なかなかタイミングが掴めなかったのも事実――。
どうしよう。
どうすればいい?
沈黙が続くリビングで、さっきから何度も同じ言葉が頭の中を回転する。
ママはきっと、昨日彼に会って何かを察したのだと思う。
中小企業とは言え、会社の社長だから。
いつも自分の部下のことをしっかり見ているから……。
だけど、そこでハッとした。
そんなママだからこそ、気付いていることに最後まで触れようとしないんだって。
それは娘のあたしに対しても同じ。
この沈黙を破ろうとしないのは、待っているから。
あたしが、自分の口で話すのを待ってくれているんだ……。

