「……美未ー?どしたー?」

気が付くと、梨花子があたしの顔をじぃっと覗き込んでいた。

驚いたあたしは、わっと声を上げて肩を跳ねさせる。


……びっくりした。


「もう梨花子のバカ、心臓に悪いよ」


「えー。だって美未があまりにもボーッとしてるからじゃん。

……何かあった?」


「んー……」


正直自分でもよくわからない。


何が引っ掛かっているのか。

あたしは今、何を思い出しかけたのか……。



“あり……、……きでたよ……”


……よみがえってくるのは、さっきのサラリーマンに感じた記憶と、途切れ途切れの言葉だけ。


ダメだ。
やっぱり、思い出せない。


「美未ー?」


今度は少し心配そうに名前を呼んだ梨花子に、あたしは「なんでもないよ」と呟いた。