「実はさ、ちょうど1年くらい前だったかな。
今のお客さんみたいに、落ち込んだ顔をして買いに来たサラリーマンがいたんだ」

「へぇ、そうなんですか」

「あぁ、それまで結構頻繁に来てたんだけどね。
仕事でミスが続いてるのか知らないけど、本当にいつもどんよりしてたなぁ……。
メガネかけて、背中も丸くて。見た目から自信の無さが現れているような感じでさぁ」

「あ〜いるよね、そういうヤツ」


それまで毒を吐いていた梨花子も相づちを打ち始める。

店長は、それに気を良くしたのか、作りかけの弁当を放置したまま更にペラペラと話し始めた。


「その人、ここに買いに来るたびに、弁当食べると元気出ますって言ってたんだけどね。
実はある時を境にパッタリと来なくなっちゃったんだ。
それが、1年前の今の時期」

「何かあったんですかね?」

「左遷でもされたんじゃん?
それか会社自体を辞めた、とか」


全く違う反応をするあたしと梨花子。


「元気でやってるかなぁ〜」


そう呟く店長の近くで、あたしはどこか引っ掛かっていた。