「あのっ……」 「あのさ、」 たまたま止まった赤信号で、勇気を出して話し掛けると、ほぼ同時に彼も口を開く。 「な……何ですか? ……じゃないや。何?」 さっき敬語を使わないと言ったばかりなのに、ついつい癖で使ってしまう。 また、注意されちゃうかな? 恐る恐る彼を見る。 だけど……彼はあたしの方は見ていなくて。 ただ赤く光る信号機を見つめていた。 ハンドルを、指でトントンと叩きながら。