「あれ?桃尻先輩、家 帰らないんですか?」


病院から出て、家とは違う方向へ歩き出す私。


「うん、お疲れ」



とりあえず社長に前借りの件を話して、
お母さんには、1円も負担させないでいいようにしたい。



「夜遊びする暇あったら、俺が貸した本読んだ方が身のために成りますよ」



『げ、忘れてた』

チリリン♪


また、ベルを鳴らして自転車ごと去って行く空野握手。



あんな本、パイロットになりたいアイツだからこそ面白いんだよ。

私なら漫画本買っちゃうけどな。




「あら、相川さん!どうしたの?事務所に何か用事?」



美々ビルディングに出向くと、そこには社長の姿はなく、事務員さんだけが呑気にお茶を飲んでいた。

呑気に、かどうかは分からないけど、
きっと私が切羽詰まっていたからそう見えたのかもしれない。



「社長なら、営業に回ってて明日しか戻らないわよ」



…………明日か……急ぎたい件なのに。



落胆をかかせないまま、事務所を出ようとした私に、



「あ、相川さん」

「……はい」


「シュークリーム食べない?」



事務員さんは、暇なのか声をかけてきた。


『それ、いつの?』


と、突っ込みたくなった のを押さえて、お茶だけ頂いて帰ることに。





「つかぬことお聞きしますけど、
ここ、給与の前借りできますか?」