私の体型ではちょっとした早足も随分な運動になる。

 肩で息をしながら、呼吸を整える。わずかに額に浮かんだ汗をハンカチで拭うと、また口を結ぶ。この汗は、急に動いたからだけではないとわかっている。体が過去の事を思い出して冷や汗をかいているんだ。


「優奈? 大丈夫? 顔色悪いよ?」


 私の視界に春ちゃんの心配そうな顔が映る。


「さっきの人……」
「え?」
「背の高い男子……」
「ああ……なんか優奈に言ってた人? 何か言われたの?」
「……あいつ、私のこと――」


 忘れていた。

 そう、この学校、中高一貫校だが、高校から若干名生徒を受け入れている。進学校だから、高校からの入学試験も決して簡単ではないらしい。そしてその難関の受験を突破してきたことから、高校から入ってきた人達は決まって持て囃(はや)されるとも。