「もしかして太川(ふとかわ)?」


 その人物を前にして、頭の中は真っ白になった。

 身長一八〇センチはあろう、その縦に大きな男子は、私を見下ろしていた。

 呆然と立ち尽くす私に、隣にいた親友の春ちゃんが私の名前を呼ぶ。


「優奈(ゆうな)?」


 春ちゃんに名前を呼ばれるまで――この間たった数秒だったのかもしれないが、息を止めていたことに気付き、急いで空気を吸う。そして私は親友の手を引いてその場を早足に去った。

 高校生活、初日。私は絶望の淵に立った。

 なんのために中学受験をして、中高一貫校に入ったのか。小学校の嫌な思い出が頭の中を次から次へと過ぎっていく。


「ちょ、ちょっと優奈ったらどうしたの!」


 黙って教室の前まで優奈を引きずってきてしまい、彼女の言葉に我に返ると私は彼女の腕を解放する。