蒼の王様、紅の盗賊







「........アスラは.....アスラなら、今は寝てる」




アスラ。
その名前が出た瞬間に、二人を取り巻く空気が引きつったような気がした。

腫れた目でレイアを見るバルトの眉がピクッと微かに動き、それから琥珀色の煌めきを陰らせて言葉を続ける。






「――――さっきは少し魘されてたけど、今は落ち着いてるみたいだ」


「.....そう」




それからまた流れる沈黙。

ゆっくりと、重く。
静かに流れるその沈黙の時の中で、見合わせた二人の視線が離れ同じ場所へと移り注がれる。







温かな灯りが部屋を包んでいる。
その中に、ポツリとまるでそこだけ別の空間に在るような月明かりに照らされる薄暗いベッド。


その上に横たわる、綺麗なワインのような紅の髪の少女。
その紅の髪がベッドの白いシーツに広がって、紅がやけに綺麗に映える。





ベッドの上の彼女―――アスラはまるで死んでしまったかのように眠っていた。

寝息すら聞こえない。
ただ浅い吐息が、僅かに彼女の紅の髪を揺らす程度。




眠る彼女の身体は見るだけでも痛々しく包帯に巻かれ、彼女の綺麗な顔にも少しだけ赤い火傷の跡があった。

だけど、それでもそんな彼女の眠る姿はとても綺麗で不覚ながら見惚れてしまった。