〜1〜






「..........ひとまずは、上手く撒いたようだな」



「えぇ、追っ手らしい者も来てはいないようよ。団長」




フゥっと安堵の息をつく。

生暖かいその息は夜の冷たい空気に白く曇り、同化する。





窓ガラスが割れ吹き曝しになった壁に寄り添って、外を見据えてレイアは言う。

その声に部屋の奥、崩れた柱の上に座るクロアも安堵した声を溢した。









「此処までは追っては来れないだろう。

付けられている気配もなかった。
俺達の行方が分かるような痕跡も全て消してきた。

暫らくは何の問題はないだろう」



「えぇ。そうだといいのだけれど.....」




月明かりで薄ら明るい外をもう一度確認するように凝視すると、レイアはクルリッと踵を翻してクロアを見る。

一方クロアは、崩れた柱の上で片膝を抱えるようにして座ったまま。
穴の空いた天井から覗く月を見上げ、怪訝そうに顔を歪めていた。









「......あら、団長?そんな顔して。何か気になることでもあるのかしら?」



「.......。
何でもない。気にするな」




レイアは怪訝そうに月を見上げるクロアに、疑問を投げ掛ける。


そんな疑問にクロアは少しだけ視線を下げ、それからまた月を見上げて答えた。








「......そう。それならいいわ」



何か含みのあるようなクロアの声に、一瞬心配そうに眉を潜めた。

だがそれから暫らくしてからフッと笑いを溢して、わざとらしく不貞腐れたような声でレイアは言う。




何も言ってくれないクロアがほんの少し気に入らなかったが、それを抑えてレイアも一緒に月を見上げた。