駅の改札を抜ける前に、安堂くんにお礼が言いたかった。

病み上がりは本当だし、外が寒いのも本当だし。

それでもわざわざ、駅まで送ってくれるなんて…。


「あの、安堂くん、あり…っ」

「あ、電車、あれじゃないの?」


あたしの言葉を遮って、安堂くんがホームを指差す。


「早く行かないと乗り遅れちゃうよ」

「え!? あ、うん!? ってそうじゃなくて!安堂くん!」


再度、安堂くんへと向き合った。

目の前に立つとそれはそれは背が高くて、見上げないと足りない。


「あのっ…、」

「ありがと」

「――――!」


あたしが言うはずだった言葉を安堂くんが、言った。

意表をつかれてポカンとするあたしに、安堂くんは小さく笑う。


「…じゃーね」


このタイミングは、絶対反則だ。

顔だけじゃなく、何だか安堂くんの全てがかっこよく思えてしまった。


(おかげで1本乗り遅れたけど)


暖房の効いた車内から、流れ行く街並みを見下ろした。

電車で2駅なんて、近い距離だ。

自宅側の駅に自転車を置いているので帰りは15分も掛からない。

人生初のアリバイお泊りから、朝帰り。

やましいことは何にもないんだけど、やっぱりどこか緊張する。

そーっと門を潜ると……。


「あらー!お帰り、早かったのねぇ!知枝里も早く大掃除しなさいよー!」

「…………、」


年の瀬は、もうそこまで迫っていた。