始まりは、小林の顔があまりにマヌケだったから、気晴らし程度のものだった。

センセーとの関係を脅すだの何だの言ってたくせに、写メや動画の1枚も持たないで。


(ほんとバカだ、って思った)


ベランダに閉め出されるくらいのバカだ。

パンや学食にも飽きてきたから、ちょうどいいって、そう思った。

それから初めて、教室で小林の存在が気に留まるようになった。

いつも一緒にいる“なべっち”と二人仲良く笑っている。

いつも机の上には教科書じゃなく雑誌を広げてて(この前当てられた時、答えられなかったくせに)、いつもちまちまちまちまちまちまと。

手鏡と向き合って、くしで前髪を梳かして、何かをこじゃこじゃ、やっている。

どうやらそれは全部、ある目的のためらしい。


『彼氏が欲しいの!』


恥ずかしげもなく、真剣な顔して、こんなことを言う。

教室でも屋上でも、どこでもかしこでも。


(彼氏よりも何よりも、まずは好きな男、作んないと無理だろ)


そんなことにも気付かないお子様で、見ててイライラしたから教えてやった。

そしたら、それを、こいつはセンセーに話してた。

授業中によそ見していた罰でやらされてるコピーの最中に、センセーと二人、話をしていた。

湯舟に浸かって、一度沈んで、何かを拭うように顔の水滴を拭いた瞬間――。


「安堂くん!? 安堂くん!?」

「………………。」