「ほらほら。いい男が台なし」


安堂くんの顔へと手を伸ばした、その時。

手首を掴まれてギョッとした。


「全然分かってないじゃん」


そう言った安堂くんの顔はまるで本物の彫刻のように、白く静寂に、あたしを見据えていた。


「ちょっと、安堂くん…!?」

「男んちに泊まるってどういうことだか本当に分かってる?」


まるで、安堂くんが知らない男の人みたいだ。

その綺麗な顔立ちが、横になっていた体が、今はあたしの真正面にある。


「わ、分かってるけど…!だって安堂くん、病人じゃん!」

「病人でも男だよ?」

「男の子でも病人なら、力で負けないよ!それに安堂くん、現にヘロヘロじゃん…っ、―――――キャッ…!?」


そう、鼻で笑おうとした時には、世界が反転していた。


「………………、…へ?」

「病人でも、熱が38度あっても、小林なんかに負けないよ」


両手首を押さえられて、ベッドに押し倒されていた。


「え、ちょっと、何の冗談…!?」

「ジョーダンじゃないよ。男んちに泊まるってこういうことだよ。分かってるんでしょ?」


安堂くんはあたしの手首を押さえたまま、唇を首筋に近付けた。


「やっ…!!!」


熱い体、熱い唇が首筋を這う。


「や、やめてよ!!? 安堂くん!?」

「力で負けないんでしょ?嫌なら自力で解いてみたら?」

「~~~っ!!!」


全力で体を揺すってみても、びくともしない。

抵抗している今でも、安堂くんの唇はますます下降し始めている。


「……ヤッ……!!!」


安堂くんの唇が、誰にも触れられたことのない胸元まで落ちてきて――――。

あたしは大きく瞳を開けた。


「ダメ――――――……っ!!!」


渾身の力で押したからか、さっきまでびくともしなかった安堂くんが、あたしの上からいなくなった。


「………っ!!」


あたしは胸元を押さえて、置いてあった鞄とかけていたコート持ち、無造作に廊下に出た。