慌てているのはあたしだけで、一人だけ涼しげな顔でこちらを見ている。


「いい加減、諦めて」

「なにを!?」

「……キスされるの」


それが聞こえるか聞こえないかの時には、腕の中に捕まっていたあたしの唇に触れていた。

こんな風にキスするのはもちろん初めてで…。


(うわーうわーうわー!!!)


心の中は大混乱。


(何回!? 何回キスされた!?)


頭の中がぼんやりして、数さえ数えられなくなっていた。

数が数えられなくなっているのは、熱のせいか、風邪のせいか、それとも―――………。


(家の中で、しかも下には家族がいるのに、あたしってば何を~~~~!?!?)


全く不可思議な安堂くんのせい、か。


「そうそう。それと、小林に新しくお願いしたいことが見付かったんだよね」

「え…?」

「教えてよ。フラれない男ってやつ。小林の隣で教えて」


その内容があまりに突拍子もなくて、びっくりした。

そして何よりも。


『だから先生にフラれるんだよっ!!!』


あたしの言葉に、やっぱり安堂くんは傷付いてたってこと。


「な…っ、なんであたしが…!」

「そういうの研究してんでしょ?」

「してないよっ!」

「そう?だったらこの写メ、本物にしちゃう?」

「!!! 分かった!! 分かった、分かった、分かったからっ!!!」


もう止めて!!

病み上がりに、これ以上の刺激は危険です!!


息の荒いあたしを見て、安堂くんは意地悪く笑っている。

彼氏がいたことも、ましてや人を好きになったこともないくせにって言ってたくせに、何故あたしにそんなことを!?


「それに弁当も。ちゃんと作ってね」

「…………、」


不思議なのは、それだけじゃない。

何故か今もまだ。

安堂くんの腕の中。


(やっぱり安堂くんって甘えん坊…?)


無表情でひょうひょうとしているくせに、妙に子犬っぽいっていうか、なんていうか…。

そんなことを思っているあたしに、安堂くんが差し出した。


「誕生日おめでとう」

「えっ!!!」


男の子から(しかもすっごくカッコイイ男の子から)初めて誕生日プレゼントを貰った。


「小林の役に立つと思って」

「いいの!?」


初めての男の子からのプレゼントにあたしは完全に舞い上がっていた。