安堂くんがあたしを真正面に捉えると、ひょうひょうとした顔で言った。


「今日、誕生日なんだってね」

「…………………、え?」

「ただの、寒い日って言ってごめんね。知らなかったとは言え、俺、酷いこと言ったよね」


安堂くんが、星屑を散りばめた瞳を伏せる。


「え、ちょっと、待って!! 謝んないといけないのはあたしの方だよ!! あたし、安堂くんに酷いこと、言った…」


そこまで口にすると、風邪のせいか熱のせいか何のせいなのか、ポロリと涙が零れ出た。


「安堂くんに嫌われても、仕方ないって……思った」


そう紡ぐ時には、既に顔はぐちゃぐちゃで涙が流れていた。

泣き出したあたしの頭に、安堂くんがポンポンと手を置いた。


「…あれは本当のことだから。怒ってなんかないよ」

「うそ…っ、だってあれから、安堂くんは来なくなった…っ」

「さすがに図星だったからね。恥ずかしくなっただけだよ」

「うそだ…っ」

「ほんと」


安堂くんのお人形みたいだけど無気力なはずのあの顔が、今は小さく微笑(わら)っている。

その顔が、今まで見てきたどの顔よりも優しくて、そんな顔を見せてくれた安堂くんに驚いて、あたしはひくりと喉が揺れた。


「じゃ、じゃあなんで…?なんでずっと屋上に来なかったの?」


言葉にすると、再び涙腺が震える。


「それは………………、内緒。」


言葉を切った安堂くんがそんなことを言った。


「何で!?」

「そういや小林、教室で彼氏が出来ないって泣いてたよね」

「えっ!?」

「結局今年も彼氏出来ないまま、17歳になっちゃったね」

「え゛!?」


今の今、天使みたいな笑顔を浮かべていた安堂くんが、いつものちょっと意地悪な安堂くんに戻っている。


「それに凄い格好。すっぴんに、おでこフルオープンだね」

「え!? あっ!? あーーーーーーーー!!!」


安堂くんの言葉に、今の自分の状況を思い出した。


「見ないでーーーーー!!!!!!」

「もう見たあとだよ」


安堂くんを一人、部屋に残して、慌てて洗面所に駆け込んだ。