安堂くんは、医学部に合格した。

今度の4月から、医学部生になる。

お父さんとの関係は、相変わらず。

だけど、文句を言うのならその仕事を自分の目で確かめてから文句を言うことに決めたらしい。

安堂くんは認めたがらなかったけど、大学に合格した日の夜は、夜勤だったはずのお父さんが家にいたんだとか。

安堂くんはたまたまだって言い張ったけど、違うんじゃないかな。

きっと、先生が言った通り、お父さんはずっと悔やんでいたんじゃないかな?

あたしも安堂くんの隣に頬杖をついて、揺れる桜の木を見つめた。

きっとこれから、止まってしまった時間を二人は補い合える。

だって親子なんだもん。

それに時間はかからないはず。

花吹雪のように、薄いピンク色の花びらが舞っている。

そこで春一番のような強い風が吹いて、花びらが大きく膨らんだ。

ふわっと。

3階のベランダにいたあたし達のもとまで、花びらが上がってきた。

それはまるで、お母さんがあたし達に笑いかけてくれたような、

そんな優しい瞬間だった。


頭の上から、花びらをかぶった。

ちらほら、と。

数は多くはなかったけど、それはまるでベールのようで。

ふいに視線がかち合った。

安堂くんがそっとこちらに体を向けた。

大きくて、優しい手のひらがあたしの頭に触れる。

ベールをめくるように、髪の毛を整えてくれた。

頭の輪郭をなぞって、その手のひらが包みこむ。

真っ直ぐにあたしを見つめる瞳。

強くて、それでいて、儚い。

寂しがりやで、優しい。

その手のひらに捕まったまま、あたしは彼の瞳を見つめていた。

ギュッと抱き寄せられて、触れる。

桜の花びらが、ゆらゆら揺れる。

“あなたに微笑み続ける”と誓うように。

“あなたの傍で微笑み続ける”と誓うように。

そっと、優しく、柔らかな唇が触れた。