さざめきは、あの頃とは全然違っていた。

あの時と季節は同じはずなのに。

芽吹く花びらを見上げるあたし。

3年前のあの頃と、全然違う。

ひらひらと、舞い散るピンク色の雨は、幸せの形。

見上げると、風に揺れて優しくこちらに微笑んでいる。


「知枝里っ!卒業おめでとっ」


黒い筒を持ったなべっちが、平瀬くんと一緒にあたしへ声をかけてきた。

落ちてくる桜の花びら。

まるでフラワーシャワーのようで、この場所から離れたくなかった。


「なべっちこそー!卒業おめでとっ!平瀬くんも」


なべっちから平瀬くんへと視線を移すと、平瀬くんも小さく笑顔を零した。


「いやー。高校最後のビックニュースはやっぱりアイツらの熱愛発覚!、だったね」


なべっちが卒業証書の入った筒で、自分の首筋を叩きながら言った。

願掛けをしていた安川くんは、大学合格の通知と一緒にナッチに告白した。

一足先に合格通知を受け取り、大学では彼氏を作ると意気込んでいたナッチは、突然のことに目を丸くするしかなかった。…らしい。

安川くんいわく、ハラハラの原因が“好き”だった。

ナッチいわく、イライラの原因が“好き”だった。

好きだと言われて、なぜかそれが嬉しかったとナッチは言った。

今では知らない人はいないくらいの、アツアツカップル。

人目を気にせず、体育館の前でいちゃいちゃとネクタイ交換をしていた。


「一番の驚きは、ヤスがあーゆーキャラだったってことだな」


平瀬くんがそれを見て、呆れて言う。


「そう?逆にナッチの方が意外だけど。結構なツンキャラだと思ってたけどな、あたし」


とか言って、しっかり二人は交換している。

ネクタイ。

両想いの特権と言わんばかりのネクタイ授与。

それがダメな場合は、ブレザーのボタンを貰うんだって。


「で、知枝里はまだもらってないの?ネクタイ」


あたしの首元を見て、なべっちが言った。

あたしはそれに、ただ笑顔を向けただけだった。


さざめきは、あの頃とは全然違っていた。

この3年間に期待を膨らませて、そっちのけだった桜の花びら。

彼氏ができるかなって、彼氏とたくさん思い出を作りたいなって、甘い夢ばかりを見ていた。

あの頃とは、全然違う。

恋には甘さも辛さも切なさも、言葉に出来ない感情がいっぱい詰まっていた。

たくさん泣いた。

たくさん想った。

たくさん募った。

だけどそれも、全て愛おしかった。

思い返してみれば、その全てが大切な、かけがえのない恋、なんだ。