言いたいことはたくさんあった。

仮にも、彼女であるあたしを置いて、元カノの、そんな強い絆で結ばれた人の元に戻るってどうなの? って思った。

でも、今。

その唇から聞かされると、そういう人だからこそ、こんなに好きになったのだと思った。

一つ一つの想いを大切にして、それをきちんと感謝する。

先生のこと、大切だった。

もちろんだよね。

好きだった人だもん。

安堂くんを闇から引きずり出してくれた人だもん。

だから、嫉妬した。

先生がいなければ、今の安堂くんはなくて。

その光に、あたしがなりたかった。


「向き合って出てきたのは、感謝と懺悔の気持ちだった。もうそこに、前みたいな気持ちはなかった。先生にもちゃんと言えたよ。ありがとうと、“先生”って」

「え……?」

「俺なりのケジメ。あの人は、もう先生」

「……!」

「そう思えたのは、小林のお陰。俺は、小林が好きだから」

「――……っ」


まっすぐに注がれた視線が、優しくて熱かった。

喉の奥から熱い何かが込み上げて、呼吸することさえ苦しかった。

はらはらと零れた涙は、まるであの時二人で見上げた桜の花びらのように。

淡くて優しくて儚かった。


「……だから、サクラダのこと好きかもしれないけど……」

「……え?」


そして続いた言葉に、耳を疑う。


「す、好きじゃないよ! あっいや、友だちとしては好きだけど、あの、みんなが言ってるような関係じゃないし!」

「……え?」


今度は安堂くんが、眉を顰める。


「だって、アイツ、小林のこと……」

「あの男はああいう奴なの! それに桜田くん、前の学校の子で忘れられない子がいて……」


と、そこまで紡ぐと、あの安堂くんが脱力してしゃがみ込んだ。


「あ、安堂くん……!?」

「うわ、やっちゃった……」

「え?」

「俺、今日、アイツが街中で女の子と歩いてるの見掛けて、そしたら“こっちが本命”とか言うから、つい……。――アイツのこと、殴っちゃった。……2回も」

「えっ!?」

「アイツ、わざとやりやがった」

「……っ」


眉を顰め、血の滲んでいた口端を擦る。

それだけで、何が起こったのか、推測できた。

桜田くんの言った、ふんぎりってそういうこと。

うまくいったのかな……って違くて!

あの温厚で優しい安堂くんが、人を殴る……!?

その状況に唖然として、安堂くんを見つめた。

少し赤らんだ顔の安堂くんがあたしを見上げた。


「……本当に、ごめん」