「安川くんのせい?」

「うん。夜とかもさ、ちょっと気になって連絡しちゃったりしてるんだよね」

「……それってどういう“気になる”?」


首を傾げて安川くんを見る。

安川くんは苦悩しながら、頭をこねくり回していた。


「知枝里ちゃんに言うのは、ものすごくお恥ずかしいことではあるんですが……」

「………つまり、ナッチのことを好きにな…」

「わぁぁぁ!! 全部言うのなしっ!!」


あたしの口元で手を振って、真っ赤な顔の安川くんが叫ぶ。


「いいじゃん。本人が聞いてるわけじゃないんだし」

「そうだけど、恥ずかしいでしょ!好きとか言えないんだよ!俺、高1の時からずっと同じクラスだし。今更って感じじゃん?知枝里ちゃんのこと相談とかしてたのにさー。ホント、なんなの?って感じでしょ。この尻軽っ!って感じ」


早口になる安川くんを、あたしはぱちくりと見つめた。

ナッチのことを気になりだしたのはこの前の夏頃だという。

毎日のように彼氏が欲しい欲しいと言っていたナッチに、だんだんとハラハラし始めた。

そのハラハラの意味を探っているうちに、ひとつの答えにたどりつき、呆然としてしまったらしい。

話を聞いていて、物凄く甘酸っぱい気持ちになった。

恋が始まる瞬間。

安川くんには、まだ無限の可能性が広がっている。

始まったばかりの恋は、エネルギッシュで、そしてとても頼もしい。

戸惑っている安川くんに、自然と笑みがこぼれた。


「いいんじゃない?あたし、ナッチの彼が安川くんなら大賛成。応援する」

「マジで!?」


安川くんがあたしの手を握る。


「だけどひとつだけ聞かせてほしいの。ナッチに対する感情って、今までの“好き”とは違うもの?それとも同じもの?」


恋には一種類しかないのだろうか。

あたしの問いかけに、掴んでいた手が離れた。


「それは……」


そっと目を伏せて、安川くんが口を開いた。


「……こんなこと、知枝里ちゃんに言うのは、ちょっと…あれなんだけど…。たぶん、違うと思う。
 こんなにも誰かを大切にしたいって思ったのは初めてなんだ」


安川くんはまっすぐに、あたしを見つめてそう言った。