退場門についた瞬間、簡単にその手は離れた。

体も離れた。

ナッチの元へと急いだ。


「大丈夫だった…?」


そっとナッチが声を掛けてくれた。


「……どうにか。それよりさ、今日って打ち上げするんだよね!?」


すぐ話題を変えた。

笑っていないと泣きそうだった。

触れ合わなければ、知らないで済んだ。

安堂くんにとって、あたしはもう、過去の人。

通り過ぎて行った人。

1か月前までは、それは先生だったはずなのに。

だけど今、それはあたしだった。


「あ、うん。なんかクラスでやるって言ってたよね!カラオケかな!? 聞きに行こっか!」


察してくれたのか、ナッチはそれ以上何も言わないでいてくれた。

閉会式が終わって、3年生は総合優勝。

桜田くんは「ほらなー」って頭の後ろで手を組んでいた。


「俺の言った通りだろー?チェリーちゃん」


だなんて。

みんなの前で言うから、また冷やかされた。

それから片付けをして、打ち上げに急いだ。

きっと安堂くんは8組の打ち上げになんかいかないと思う。

今もまだ病休中の美坂先生のところに行くんだろう。


……もう、関係ない。

安堂くんは過去の人。

あたしを過去と思う人――。


必死に、必死に。

全てが零れ落ちないように、必死に笑っていた。