さっきまでの心音とは比べものにならないほど大きな心音が、あたしの全神経を揺さぶっていた。
踊りたくない。
顔を合わせたくない。
逃げ出せるものなら逃げ出してしまいたい。
……それくらい、辛い。
だんだんと近づく安堂くんとの順に、あたしは浅い呼吸を零して、全身が震えていた。
安堂くんと手が触れ合いそうになった瞬間、音楽が止まった。
「――――………っ」
顔は上げられなかった。
止まった音楽で、二人の動きも止まった。
曲が変わる。
退場曲。
校庭にアナウンスが流れた。
先生たちには、退場の時もきちんと手を繋いで退場しろと言われていた。
でも―――。
触れ合わなかった手は、止まってしまった時間は、もう元には戻せない。
触れ合わないまま、あたし達は歩き出した。
ただ隣を歩いているだけ。
言葉も交わさない。
目も、合わせない。
ただ右半身がピリピリと緊張していた。
「おいそこ!ちゃんと手を繋がんか!」
「―――…っ!!」
フィールドから出ようとした時、体育教師に叫ばれた。
やだ…。どうしよう…!
周囲から囁き声が聞こえた。
顔、上げられない…。
手を、上げられない。
「…………、」
だけど視界の隅に、無言で差し出された手のひらがあった。
安堂くんの手。
心臓が遅く重く拍動する。
目をつぶって、息を呑んだ。
引き締めておかないと涙が出そうだった。
辛い。
ヤダ。
でも――……。
あたしはその手のひらに、そっと手を乗せた。
言葉はなく。
前とは全然違う、温度。
力の入らない手のひらに、冷たさを感じた。
もう全ては過去なんだと思い知らされた。