「ちょっと、いきなり、なに…っ」


膝に手をつき、息を切らして訴えた。

そんなあたしを無視して、桜田くんは「いえーい!」とみんなに向かって両手を挙げていた。

紙に書かれていた借り物を大きく発表している。


紙に書かれていた借り物は―――……。





「えー!あれが安堂先輩の元カノで、派手な転校生の好きな人~!? てか恋人!?」


桜田くんのとんでもないイタズラのせいで、ますますみんなの噂の種になるはめになった。


「マジウケる~!桜田ってチョー男前!」


隣でナッチがケラケラと笑っている。


「みんなの前で告白なんてマジで凄い奴だね!桜田嵐!」

「告白じゃないよ!桜田くん、ホントに何を考えて…っ」

「知枝里のこと好きってことじゃん?チョーあからさま」

「だからそれは違うんだって!桜田くんとあたしはそんなんじゃなくて…っ」

「はいはいはい。あとでゆ~っくり聞いてあげるから、今はフォークダンスのために気合い入れて化粧するよっ!」


ナッチはそう言うと、鏡の前、髪の毛を整え始めた。

最後の種目は、フォークダンス。

みんながいつも以上に気合を入れている。


予想はしていたが、下級生の視線も、同級生の視線も、とてつもなく痛かった。

桜田くんと踊る時、桜田くんの友だちらしい男子に冷やかされた。


「キスしろ~!」だなんて、冗談やめて!!


桜田くんも調子のいい奴だから、本気であたしにキスしようとした。

思い切り拒否して頬を押した。

それを見た男子が再び笑った。


「もう、ホントにやめてよっ!!」

「え、いーじゃん。高校最後の思い出に」

「桜田くんっ!!!」


全身の毛を逆立てる勢いで、桜田くんを睨んだ。

それでも楽しそうに笑うこの男は、緩い笑顔であたしの耳元に顔を寄せる。


「その勢いだよ」

「……!」


クラスの女子みんなと踊りたいからと、勝手に一番後ろに順番を変わっていた桜田くんが、前へと進んで行く。

その瞬間、背筋が凍るのが分かった。


「……知枝里、次、8組の男子だよ…っ」


ナッチの不安そうな、だけどどこかで荒ぶるような声色。

8組の男子。

その中に、安堂くんが、いる。