去年の今頃のあたしなら、きっとこんな言葉出てこなかった。
分かってなかった。
人を好きになるってことがどんなことなのか。
だけど今は、桜田くんの顔を見てすぐに分かった。
心が、その人を好きって叫んでいる。
桜田くんは笑ったまま、小さく瞳を伏せた。
「…そーだねー。好き、かな…、たぶん」
「……多分…?」
「報われない恋って思ってたよりも辛いなーって。顔、見なくなれば忘れられるって思ったんだけどね」
「……それで、転校を…?何で、忘れないといけないの…?」
桜田くんの顔が上がる。
やっぱり悲しそうな笑顔で、あたしを見据えた。
「…傷つけてしまったから。俺、サイテーなことしたんだ。二度と顔なんか見たくないって言われて…それで。逃げてきた。母親の再婚を言い訳に、逃げてきたんだ」
桜田くんの言葉と共に、潮風が頬を掠った。
いつの間にか、目の前に海。
「ここ、よく遊んだ海。もうクラゲいるかなー?」
話をすり替えるように、桜田くんが言った。
「ちょっと行ってみよ!」
手を引かれて波打ち際まで走った。
ズボズボと砂に沈む感覚で足が重い。
「ちょ、ちょっと桜田くん!?」
靴の中に、砂が…!
「だらしないぞ小林ー!ちゃっちゃと走れ~!!」
いつもの笑顔が、あたしを捉えた。
ムッとして桜田くんを見た。
しかしそれさえも桜田くんは明るかった。
「だから、チェリーちゃんもさー。吐き出しちゃえよ。思ってること。アンドーへの気持ちとか、…センセーのこととか。全部」
「――――、」
波打ち際、水平線を見つめながら呟いた桜田くんの言葉に、この旅の意味を感じた。
桜田くんは、あたしの話を聞いてくれるためにここまで連れてきてくれたんだ。
自分の話をしたのも、きっとあたしに話をしやすくするため。
……“きっと”だけど。
その横顔が優しくて、そうだと確信した。

