単なる別れ話ならまだ、マシだった。絶対マシだった。

見てしまったのは、学年でも有名なあの人の姿。

色素の薄いその顔は、まるでテレビの中の住人みたいに綺麗で端正。

オレンジ色に染まるシャツ。伏せたまつげが頬に影を落としている。

バランスよく伸びた肢体が夕焼けの中に溶けていた。


その人が別れ話をしているだけでも問題なのに、それに輪をかけるような事態が発生している。

その彫刻みたいに綺麗な姿の前に立つその人は――。


(美坂先生…!?)


両手で口を押さえて、ベランダに座り込んだ。

あの、カッコイイって有名な安堂くんと、あの、美人で有名な美坂先生が……


(付き合ってたなんて…!!)


ここ1番の大スクープだ!

いや「大」なんてものじゃない。

しかも、内容的に、あの安堂くんがフラれてる感じ。

学年中の女の子が告ったところで全然靡かないわけだ。

女の子には興味がないって噂だったけど、なるほど。

女の人、が好みだったわけね。

それにしても、全然知らなかった。気付かなかった。

安堂くんとは同じクラスだし、美坂先生の授業も普通にあったのに。

上手に付き合ってたんだなぁ。


(なべっちにメールしよ)


絶対みんな知らないぞ。

こんな大スクープ!


(携帯、携帯……、ハッ!!)


ポケットを探してみたが、そこには何も入っていなかった。

タラリ、と汗が流れる。


(ま、まさか…!)


あたしは、教室内の二人にバレないように、だけど勢いよく、教室の中を窺った。

二人が話している教室の片隅。あたしの鞄が、ちょこんと置いてある。


(嘘でしょ、待ってよっ!!)


先生×生徒の恋愛なんて、禁断の中の禁断でしょ!?

鞄の残った教室で、いつ誰かが帰ってくるとも分からない場所で……、


(別れ話なんかするなっつぅの~!!)


あたしは、声にならない声で、空に向かって、吠えた。