それからもたまに、桜田くんと話をするようになっていた。
何の種目に決めたのか、と聞くと、借り物競走に出ると言っていた。
今時、借り物競走とかやるんだね~?と何だか昭和な香りが漂うとも言っていた。
たまに話すだけなのに、それに対してナッチは過剰に想像を膨らませていた。
「恋の痛手は新しい恋だけが治すことができるんだ」と、なべっちと同じ意見。
そうじゃないこともあるんだよ、と言いたかったけど、言えなかった。
安堂くんの姿を見かけると、今でもやっぱり視線は逸らした。
視界に映るだけでも辛いのに、これを癒せるなんて思えない。
廊下ですれ違う時も視線は落としていた。
ナッチが気を利かして、安堂くん側を歩いてくれることもあった。
だけど気にしているのは、あたしだけ。
安堂くんは前と変わらず…、いや。
知り合う前と同じく、誰にも視線を留めなくなった。
あたし達は、目さえ、合わなくなった。
たったそれだけの関係だったと思い知らされた。
最初の出会いや繋がりも、劇的なものでもなく。
ロマンチックなものでもなく。
悲運な偶然が重なっただけのあたし達には、何も絆はなかった。
安堂くんが学校に来て1週間。
2学期が始まって2週間が経った土曜日。
「知枝里~!お友達よー!」
勉強をする気にもなれなくて、ただ教科書を広げていると、1階からお母さんの声が響いた。
「お通ししてもいいのー?」
「いーよー!」
ナッチ、か?
教科書を閉じて、ドアへと近づいた。
「ちーっす!」
「!!」
するとそこに、金髪の頭。
「え!?桜田くん!?」
「今日ヒマっしょ?ちょっと遊びいこーぜー!」
「ちょっ…!?」
顔を合わせて2秒。
桜田くんが強引に手を引っ張る。
「お邪魔しましたー!ちょっとだけ知枝里さん、お借りしまーす」
呆気に取られているお母さんに一礼すると、そのままあたしを外へと連れ出した。
「ちょ…、どこに行くの!?」
門の外に置いてあった自転車に桜田くんが跨る。
「いーとこ」
語尾にハートマークをつけて、桜田くんがニカッと笑った。

