それから、次の日も、それまた次の日も、安堂くんは学校に来なかった。
そうしているうちに、1週間が過ぎていた。
「今日も安堂くん来てないんだって」
女子の間では、それが挨拶代わりみたいになっていた。
「どーしたんだろー?安堂くん。高校入ってから、一度もこんなことなかったのに」
机の上、深く頬杖をつきながら、ナッチがしかめっ面で言った。
「勉強に専念したいんじゃないの?だったらなんで学校来ないの?」
「……さぁ。予備校とかに通ってるんじゃない?」
「出席日数に影響するのに?上目指すならちゃんと学校来るでしょ」
ナッチに返す言葉が見当たらない。
黙りこむと、ナッチが続けた。
「何か、中2の時みたいだよねー」
「え…?」
「ん?知枝里、安堂くんから何も聞いてないの?中学の時のこと」
―――中2の時。
…先生と、付き合った頃のこと、だ。
「中2の1学期もさー、突然、学校にこな…」
「やめてっ」
気がつけば、大声で耳を押さえていた。
目の前のナッチが、呆然とあたしを見つめる。
「今はもう、聞きたくないの。……ごめん。そっと、してて」
立ち上がったあたしに、ナッチが小さく「ごめん」と言ったのが聞こえた。
言葉の断片から、どんどん繋がっていく。
安堂くんと先生の関係。
数年前に亡くなった、お母さん。
中2の時に学校に来なくなった、安堂くん。
3年前からの交際。
…それは、中2。
ほら、繋がる。
二人を繋ぐ糸。
先生もご両親を亡くしたって言ってた。
出逢いは病院か、他のどこかかは分からないけれど、二人は同じような境遇で分かりあえた。
きっと安堂くんを救ったのは先生だ。
「……ははっ…」
考えているうちに笑ってしまった。
笑うしかなかった。
そんな先生に、勝てるはず、ないじゃない。
それに比べて、あたしはたまたまだ。
たまたまベランダで居眠りして二人の現場を発見した。
たまたまベランダに閉じ込められて、その腹いせに安堂くんを脅そうとした。
たまたまそれで安堂くんと知り合っただけ。
寂し紛れに傍にいただけ。
きっと他の誰でもよかったはず。
傍にさえ居てくれれば。
そう思うと、自分と先生の立場の差に、笑うしかなかった。
何を勘違いしてたんだろう。
好きって言葉の意味と、ただ誰かに傍にいて欲しいって言葉の意味を、あたしは一緒にしていた。
比べる立場にさえ並んでいなかったというのに……。

