「……写メ、って言ったの。俺の言うこと聞かないなら、これをどうするって言ったっけ?」


……目の前に、お人形みたいな顔した悪魔が…君臨している。

あたしのバカは、すっかりそのことを忘れていた。

そういう因果関係で、こういう関係になったことをすっかり忘れていた。


「え、ちょっ…、それは…っ」

「これ、バラまかれたら、彼氏どころか友達もいなくなるかもよ?」

「――――、」


(悪魔だ!目の前に正真正銘の悪魔が君臨している!)


自分がモテるということを十二分に理解した、めんどくさい悪魔。

その写メをバラまかれたら、いたいけな小羊の人生が全て終わることも知っている。


「……あたしはいったい、何をすれば…?」


言われた通り、毎日お弁当、作ってます…けど?

すると安堂くんは、夕焼けに染まる屋上で、あたしに向かって両手を広げた。


「……え?」


それはあまりに力なく。

あまりに儚く、綺麗でキョトンとした。

小さな星屑を灯らせた瞳が、すがるような目で、あたしを見上げていた。

……まるで、世界に一人ぼっちにされた子犬みたいに。


「……来て」


その小さな声に、あたしは吸い寄せられるように動いていた。

帰る気満々だったのに。

そんな顔されちゃ、無視して帰ることなんて出来るはずがない。

膝を折って、安堂くんの傍に寄ると、また、あの衝動。

―――あたしはいつも、逃げ遅れる。


「……っ」


今もまた、安堂くんに捕まって身動きが、取れない。

ギュッ、と。

そんなに強く抱きしめなくても、そんなに簡単に振り払ったり…しないのに。

ドキドキと心臓は有り得ないほど速く鳴っているけど、今にも泣き出しそうな安堂くんを振り払うことなんて出来ない。

夕焼けに染まる屋上で、夕焼け色に染まった髪が、揺れている。

よしよし、と撫でてみた。

やっぱり、思っていた通り柔らかい。


(ふわふわ…)


それにいい匂いもする。