「………え?」


背けていた顔を安堂くんへと向ける。


「左足が折れてた。全身を強い打撲。……でも、一番酷いのは頭の傷だった。思っていたよりも深くて、大変だったんだ」

「そんな…」


思っていたよりも酷い容体に、あたしは息を呑んだ。


「もう…、大丈夫なの…?」

「…ああ」


安堂くんは頷く。

小さな安堵感が漂った。

…良かった。

渦中の人ではあるが、それとこれとは話が別だ。

先生が、無事でよかった。

そこで小さな沈黙が流れた。

自然と伏せていた瞳をあげる。


「…あの、じゃぁ…」

「それで」


あたしの言葉を遮って、安堂くんが言った。


「それで……」


嫌な予感がする。

凄く、嫌な予感。

安堂くんの瞳が揺れている。

らしくない。

いつもの安堂くんからは想像つかない。

甘えん坊な安堂くんでも、そんな顔はしない。

喉元で心臓が動くような心地がした。

ドッドッドッドッ…と。

とてつもない速さで。


「…誰かが傍についていてやらないといけないって、傍で支えてやらないといけないって………医者に、言われたんだ」

「………………え…?」


数秒、理解が出来なかった。

吐き出してしまいそうな心臓をどうにか呑みこんで、首を傾げた。


「それを…どうして、安堂くんがあたしに言うの…?」


問いかけた時、安堂くんは視線を落としていた。

今、どんな顔をしているのか、分からない。

違うよね…?

ただ、聞いた話をあたしにしてるだけだよね?

……違うよね?

安堂くんが、その“誰か”になろうなんて、 言わないよね…?